■京都国立近代美術館に来ていたアーツアンドクラフツ展に行ってきた。
http://www.momak.go.jp/


展示の趣旨としては教養的要素が強いから
歴史や地理が好きな人には楽しいだろう。

目を楽しませる、と言う意味では少し物足りないけど
タペストリーなんかはスバラシイ出来で、一見の価値があったかな。

その出来に思わず興奮して、近づきすぎて、ラインを踏み越えていたらしく
二人ものスタッフがあちこちからすかさず飛んできて叱られてしまった。


ただね、工芸ってのはは絵画より近くて、触れて良さが分かるようなものだから
眺めるだけというのは、やっぱり物足りないんだよ。
だから売店に立ち寄って、企画展示にちなんだ品を手にとってみるのをお薦めするよ。





とても優しいきもちがあふれ出してくるから。





愛情を持ってデザインされたモノがもつチカラを感じてほしい。





■ここからは少しつっこんだ話。

アーツアンドクラフツは
生活と芸術をドッキングさせようとする試みのことだ。

合理化一辺倒だった産業革命の時代、機械による粗悪な大量生産品が出回り、
その反動で、建築家やデザイナーから中世の手工芸を復興しようとする動きが出た。

合理化と資本主義ばかりが横行してデザインを置き去りにしてしまっていた世の中に、
自分達の存在意義を示そうとしたんだね、きっと。

彼らは、思わず触れたくなるような微妙なラインや精巧な装飾をもつ家具や壁紙などを合理的に生産する方法を編み出して世に広めていった。

こうしてデザインのチカラのこもったモノを、世の中に広く浸透させることで
世界を変えていこうとした彼らだったけど、
皮肉なものだね、
よりよいモノを求めるうち、
庶民は決して使うことができないような、非常に高価なモノづくりに
結局彼らは行き着いてしまう。 


モノが粗悪品か超高級品かの両極端になってしまった世界。
なんだか、、なあーーー、
でも仕方ないよなあ・・・・。

いやいや、落ち込まなくてもいい。
長いタイムスパンでみれば庶民にとっても無駄ではない。
そのうち、超高級品の模造品みたいな中間のモノが出現して
庶民も彼らの恩恵を蒙った(と思う)。






■アーツアンドクラフツに関して切り口は様々あるが
今回見てきた展示は
イギリス都市部で始まったアーツアンドクラフツ運動が
田園地域や世界各地に伝わったとき
その表現形がどのように違うかを示したもの。

結果から言うと面白かった。
多分、私は人の心を見るのがすきなのだ。
政治や社会状況なのどの背景の違いで
人々がもとめるカタチは異なってくる。

そこに心をみつけて
なんだかうれしくなる。




洗練されて驚くほどモダンなものもあり、おお??これも本当にそうなのか?と思ったりもしたけどそれはそれ。

そもそも思想なんて伝われば伝わるほど伝言ゲームのように形は変わるものなのだろうな。



■それで初めて知ったのだけど
アーツアンドクラフツはイギリスから、遠く日本までにも伝わってきていたのには驚いた。
無名の工人らが生み出す器や家具などに、健康で伸びやかな美を見出した柳宗悦らの「民藝」が
アーツアンドクラフツの流れで解釈できるらしい。
モノだけを並べるとまったく違うから、コレまでぜんぜん気づかなかった。


■でも一番知って驚いたのは、ウイリアム・モリスが思想家だったということだ。
モリスはデザインと製造工程の改善で、公正で人間的な社会を生み出すことを目指した。
そして実際、モリスの工房では労働と余暇、芸術と生活が「完璧な均衡」をとっていたという。
それって素晴らしい。
現代でも課題になるバランスの取れた生き方を、モリス自身がこんなふうに実践して見せたんだね。
彼の影響力は強かったらしく、彼のやり方がお手本として広がったらしい。
デザイナーがこんな風に世界を変えるだなんてなんだかドキドキする。


私の偏見かもしれないが建築家は、哲学的な人種で
デザイナーは、もっと感覚的な人種だとおもっていた。
なのでデザイナーであるモリスが、ここまでの思想をもち
そして実践していたことに感動した。
(後で知ったのだけどモリスはもとは建築家志望だった)

ある意味、私のなかでのパラダイムシフトが起こったよ。

そして忘れちゃいけないのが、どうしてそれ程までにモリスの影響力が強かったか。
説明ボードを丹念に読んでいくとこんな意味の一文があった、

モリスの弟子達は彼らがモリスの弟子であるというプライドを持っていて
広く世にモリスのやり方を広めていった、

と。

政治家じゃなくても世の中は変えられる、
自分達のデザインに対するプライドは、
自分達のやり方で世の中を変えるんだ、という勢いになったんだね。

とっても素敵じゃないか。






■人が幸せに生きるにはどうすればいいか、
モリスの回答は、日常に芸術が同居できるようにすることだった。

売店コーナーでモリスの壁紙のデザインを組み込んだ手鏡に触れたとき
とてもほっとして、幸せで、優しい気持ちになった。
その手鏡の基本形は、ありきたりの大量生産品に、
壁紙をはめ込んだだけのものだったけど
それでも、デザインのチカラは生きていた。

ああ、これなんだ、

そう売店で実感した。



使い捨てになんて可愛そうでできないモノ、
大事に使いたくなるモノ、
それらに触れるととてもいい気分になる。



それは愛情を込めてデザインされたアイテムのチカラ。

モリスは素敵にデザインされたアイテムで
人を幸せにできると考えた。


私には何が出来るだろう?

まだよくわからないけれど、
私はそんな愛すべきモノ達がヒントになるような気がして
インテリアの道に踏み込んだのかもしれない。




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