運転手さんの話

2007年8月14日
帰省のバスに乗り遅れそうだった朝、
慌ててタクシーに乗ったら、
ドライバーは白髪のおじいさんで、なんと年齢は80歳だった。

時間がおしてたので『急いで〜(TT)』と拝み倒したら
クラクション鳴らしまくりで早朝の東大路どおりを爆走してくれた。
でも車内はゆれもせず、穏やかなもんだった。

ああ、この人、プロだ。

体がゆれることもない静かな運転と穏やかな会話。
プロフェッショナルな仕事で穏やかに運ばれながら、
しかし私の心はちっとも穏やかじゃなかった

泣きそうだった。

理由は時間に遅れそうなことなんかじゃない。

それは運転手さんがこんな話をしてくれたからだった。

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男親ってのはねえ、そりゃもう娘を心配してるもんですよ。
顔にはだしませんがね。
こんなお客さんがいたんですよ。
その人、大学進学で寮での一人暮らしをはじめた娘のところを尋ねたい、
そういって乗ってこられたんですがね、
場所がわからんから一緒に探してくれんかというんです。
娘さんには秘密でいらっしゃったんですね。
住所を頼りに探しましてね、それでついにそれらしき建物を見つけたんです。
そしたらその人、近所をぐるぐるタクシーで建物の周辺をまわってね
スーパーマーケットがどこにある、とか駐在所がどこにあるとか、
郵便局がどこにあるか、とかそういうのを見ながら
何週も何週もまわってから、
これで、私の用事は終わりました、帰ります、
そういってタクシーを降りることもなく帰路につかれたんです。

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そんなもんかもしれない。
かつて私が無断で朝帰りした日、
ずっと玄関で待ってたのが母だけでさらにグレそうだったけど

大学にいくようになって家をでてから
毎月振り込みをしてくれたのは父で
残金が少ないといっては足りてるのかとぶっきら棒な電話をよこしたのは父で
残金が多すぎるといってはどうしたんだと電話してきたのも父だった。

ああ、すっかり忘れていた。
こういう視点でとらえたこともなかった。

孫だろうか娘だろうか。
運転席のクーラーの送風口の横には
すっかり色あせた写真のなかで小学校低学年もしくは幼稚園くらいだろうか
小さな女の子がにっこり笑って運転手さんを見上げていた。

それはお孫さん?
そう尋ねたが、
私の声が聞こえなかったのか
運転手さんは何も答えないままタクシーはバス乗り場についてしまった。
バス乗車ジャスト3分前だった。

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